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20年以上広告で使われ続ける「丸明オールド」。そして、新書体「砧明朝体」で新たなステージへ――砧書体制作所(旧カタオカデザインワークス)

FONTPLUSでご利用いただけるフォントメーカー14社(2021年3月25日現在)をご紹介するコーナー。今回は「砧書体制作所」をご紹介します。

砧書体制作所

皆さんは、砧書体制作所というフォントメーカーをご存じでしょうか? 20年以上にわたり、広告やパッケージなどで使われ続け、街中で毎日見かけることができる書体、「丸明オールド」を生み出したフォントメーカーです。

2016年1月に、カタオカデザインワークスから砧書体制作所に社名変更したので、「カタオカデザインワークス」の社名で覚えている人もいるかもしれませんね。創業は1995年ですので、砧書体制作所も比較的新しいフォントメーカーになるかと思います。

この20年間、たくさんの素敵なフォントを世の中に提供している書体デザイナーが、片岡朗さんと木龍歩美さんです。

「丸ゴシック体」は聞いたことあります。でも、「丸明朝体」って?

ゴシック体には、大まかな分類として、角ゴシック体と丸ゴシック体があります。でも、丸明朝体ってあまり聞いたこと、ありません。丸明朝体って書体分類、ありましたっけ?

はい、あります。砧書体制作所が2001年にリリースした「丸明オールド」が丸明朝体の代表選手です。ここでは、丸明朝体とは「トメやハネやハライ等の要素が丸く処理がされた明朝体」と定義することにしましょう。

20年前にリリースされた丸明オールドは、フォント業界をあっと驚かせた今までに無かった書体でした。それまで、明朝体といえば、ウロコが三角の形をして伝統的なイメージの明朝体が当たり前でした。

ところが、丸明オールドは、すべての要素が丸いのです。ウロコだけでなく、始筆部分も、トメもハネもハライも、全て丸のエレメントで構成されています。このスタイルが、文字に柔らかさと優しさを感じられるのだと思います。

そして、ひらがなとカタカナが、活版印刷時代の書体の骨格で作られているので、懐かしさも感じられるのです。

当たり前という概念を払拭しつつ、明朝体の骨格や日本の活字文化も継承し、何年もの時間をかけて作り上げられたフォントには魂が宿るのです。

毎日、街中で見かける丸明オールドですが、誕生から20年経っても使われ続けています。見慣れてしまうと飽きてしまうのが一般的ですが、この書体には、不思議な魅力があるのだと思いました。

その後、2007 年に仮名を6種追加し、「丸明朝体ファミリー」として拡張されました。

フォントカタログ

「丸明朝体」以外にも、丹精込められた、たくさんのフォントが誕生

砧書体制作所のフォント制作アトリエに何度かお伺いしたことがあります。康熙字典や明治時代に刊行された夏目漱石の書籍などなど、活字や書体が好きな人にとって、参考になる図書がたくさんありました。そして、制作過程のフォントの印刷見本が壁に綺麗に貼られています。そんなアトリエで、この20年間、たくさんの素敵な書体が誕生しました。

片岡朗さんの経歴をご紹介しつつ、書体リリースの変遷もご紹介します。

片岡朗さんは1947年生まれ。東京都出身。高校卒業後、レタリング事務所、デザインプロダクション、広告代理店を経て1990年独立。

片岡朗さん略歴
1972年第2回写研主催タイプフェイスコンテスト3席受賞
1995年有限会社カタオカデザインワークス設立
2000年サントリーモルツの広告キャンペーンで「丸明オールド」発表
2005年12種のかなの形の差をファミリーとした「iroha gothic family」発表
2007年6種のかなのバリエーションを加えた「丸明朝体family」発表
『文字本』誠文堂新光社より上梓
2009年角丸の差で2種の漢字を使い分けられる「丸丸ゴシック」発表(日本タイポグラフィ年鑑大賞受賞)
2012年コラボレートフォント、筆書体「佑字」発表
オーダーフォント「どんぐり」発表
2013年コラボレートフォント、手描き文字「山本庵」発表
2014年極細フォント「芯」発表
2016年屋号を砧書体制作所に変更
2017年「砧明朝体」発表(日本タイポグラフィ年鑑大賞受賞)
2018年「砧明朝体 L」をリリース
2020年「砧明朝体 R/B」をリリース

「砧明朝体」という新しい書体

2018年5月11日に、竹尾の見本帖本店で開催された「日本タイポグラフィ年鑑2018グランプリ」受賞記念スペシャルトークショーに参加しました。登壇者は、グランプリを受賞した砧書体制作所の片岡朗さんと木龍歩美さんです。

毎年、国内外からタイポグラフィ・デザイン作品が応募され、『日本タイポグラフィ年鑑』に受賞作品や入賞作品が収められます。この年は1,374件の作品が応募され、お二人が制作した「砧明朝体」がグランプリを受賞されたのです。

グランプリ受賞を祝福したくて、最前列に座って片岡さんと木龍さんのお話をじっくりお聴きしました。

思い返すと、4~5年前に片岡さんにお会いした際、「自分の明朝体を探す旅に出ます」とお聞きしていました。そして、3年以上の歳月をかけて、砧書体制作所として、新しい明朝体を誕生させたのです。その新書体のコンセプトは、「優しさ」と「間」だそうです。

砧明朝体は、曲線の要素を多く取り入れたそうです。それが、印刷のにじみ効果のようになり、見る人に対して優しさを感じさせるようです。そして、横棒と縦棒にも、曲線を取り入れているので、よく見ると直線ではないのです。

片岡さんからお聞きして、印象に残ったフレーズをご紹介します。

写植時代には、1mmの幅の中に手描きで10本の線を書くという技術が必要とされた。いまはMacで書体を作れるけど、その感覚を大事にすることが重要なのです。画数の多い字を縮小しても潰れないように作る際に必要な処理です。そして、仮名は曲線がもともと美しい書体なので、漢字との調和を保つよう、制作しました。

トークショーの会場で、片岡さんに質問をさせていただく機会をいただきましたので、

片岡さんと木龍さんが手掛ける書体には優しさと温もりを感じます。そして使い続けても飽きがこないのは凄いなぁと感じます。

質問です。砧明朝体のアルファベットはとても個性があります。A、B、K、N、Q、Rとかg、k、!、?、&、6、9など。今まであまり見たことのない形をしていると思います。でも組んでみると違和感がありません。最初からこの形が思い浮かんだのか、試行錯誤の中から誕生したのでしょうか?

とお聞きしてみました。

片岡さんの回答は、こうでした。

欧文書体はものすごい数の書体が存在し、綺麗な書体がすでにたくさんあります。日本語書体を制作しているので、欧文書体の美しさを求めるというより、和文と欧文とを組み合わせたときに、こういったアルファベットもあってもいいじゃないかなと思ったんです。漢字や仮名の要素を欧文に流用したのは実験的でもあり、みなさんが、これからどう感じていくのだろうかと興味があります。

片岡さんは、フォントの利用者に対して、書体をどう表現するかの選択肢の提案をしているのだと思いました。

フォントカタログ

うれしいことに、セミナー会場で、アートディレクターの副田高行さんが聴講されていました。副田さんは、丸明オールドがまだ制作過程のリリースしていないときの2000年に、丸明オールドを使ったサントリーモルツの新聞広告を発表しました。その後、20年間以上、丸明オールドは、飲み物や食品、化粧品の広告になくてはならない存在になったのです。

新書体に対する評価はリリースされた時の反響だけでなく、何十年、何百年経ってからの評価で見えてくるものがありますよね。ファッションと同じように、書体の評価も時代と共に変化するものなのかもしれません。

砧書体制作所の書体ご紹介

砧書体制作所からリリースされている代表的なフォントを、FONTPLUSためし書きで表現してみました。

FONTPLUSで使用できる砧書体制作所のフォントは、現在、32書体。近日中に、砧明朝体(3ウェイト)を追加リリース予定です。

砧書体制作所のフォントを活用した導入事例

Webフォントとして活用した導入事例を2つ紹介します。

金沢の坂道

金沢の坂道は、Webサイトの雰囲気と優しさを感じる丸明オールドとの相性がとても良いです。コンテキスト(サイトコンセプトや情景)に合わせた書体選びが秀逸です。

まるまるもりもりプロジェクト

まるまるもりもりプロジェクトは、Webサイトでは難しいと言われていた「たてよこ混在のレイアウト」も、うまく活用し、楽しくて美しいサイトに仕上がっていますね。

砧明朝体など、砧書体制作所のフォントを使った、表現豊かなサイトに出会えるのがこれからも楽しみです。