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「ヒラギノフォント」をご存知ですか? 世の中で一番有名で身近なフォントかもしれない、ヒラギノフォントのルーツを探る。SCREENグラフィックソリューションズのフォントの世界。

FONTPLUSでご利用いただけるフォントメーカー14社(2021年5月24日現在)をご紹介するコーナー。今回取り上げるのは「SCREENグラフィックソリューションズ」です。

SCREENグラフィックソリューションズ

皆さんは、SCREENグラフィックソリューションズというフォントメーカー、ご存じでしょうか? SCREENと聞くと、大日本スクリーン製造という社名が頭に浮んだ人が多いのではないでしょうか。半導体・液晶製造装置・印刷関連機器などの産業用機器を製造する世界的に有名な大企業です。本社は京都にあります。2014年に持株会社体制移行にともない、社名がSCREENホールディングスに変更になりました。

SCREENホールディングスのグループ企業の中で、印刷関連機器事業を担う会社が、SCREENグラフィックソリューションズになります。印刷関連機器において、フォントは欠かせない存在です。

「ヒラギノ」というフォント名を聞いたことがない人にとっても、実は、毎日の生活の中で身近な存在であり、必ず目にしたことのある書体なのです。ヒラギノフォントは、iPhoneやmacOSに標準フォントとして搭載され、高速道路のサインシステムなどでも使用されているとても有名な書体です。

そして、その書体を提供しているフォントメーカーが、SCREENグラフィックソリューションズという会社なのです。この記事の中では、以下、「SCREEN」と略して表現します。

「ヒラギノ角ゴ」と「ヒラギノ明朝」

グラフィックデザインやウェブ制作に関わる人であれば、「ヒラギノ角ゴ(ヒラギノ角ゴシック体)」と「ヒラギノ明朝(ヒラギノ明朝体)」を知らない人はいないと思います。ちなみに、「角ゴ」は「カクゴ」と読みます。

それでは、まずは「ヒラギノ角ゴ」と「ヒラギノ明朝」をFONTPLUSのためし書きで表現してみましょう。

ヒラギノ角ゴのW0からW9の10ウェイトのうち、W0/W1/W3/W6/W9の5ウェイトを使用
ヒラギノ明朝のW2からW8の7ウェイトのうち、W2/W3/W4/W6/W8の5ウェイトを使用

美しくて読みやすい書体です。日本にiPhoneが初登場したのが2007年なので、iPhoneを使用するようになってから14年が経過しました。日本ではiPhoneを使用している人が多いので、14年間、多くの日本人が無意識のうちに「ヒラギノ角ゴ」に毎日、接していることになります。

SCREENから提供されている「ヒラギノ角ゴ」には「W0」から「W9」までの10ウェイトがあります。同じフォントでも10種類のウェイト(文字の太さ)を持つファミリーは、文章表現をする上でとても役に立ちます。FONTPLUSでは、ヒラギノ角ゴは10ウェイト利用できます。

フォントカタログ

例えば、大見出し・小見出し・本文を文字サイズで変化を持たせて読みやすくする方法がありますが、同じ文字の大きさでウェイトを3種類(例えばW6、W3、W0)使うことで、情報の重み付けに変化を持たせることもできます。この考え方は、Webフォントを使うウェブサイトの文章表現だけでなく、ビジネス文章でも役にたつ表現方法です。

ウェイトのバリエーションが多いと表現方法の幅が広がる(例:ヒラギノ角ゴではW0からW9まで10種類の文字の太さから選べる)

ヒラギノフォントのルーツを探る

ヒラギノフォントはいつ誕生したのか、名前の由来は何なのか、ルーツを探っていきましょう。

ヒラギノフォントは1990年に、大日本スクリーン製造(現在のSCREENグラフィックソリューションズ)が開発に着手したデジタルフォントです。今から約30年前に開発プロジェクトがスタートしました。

1990年といえば、米国が発祥の地であるDTP(デスクトップパブリッシング)が日本でも根付いてきた頃です。写真製版の総合機器メーカーであるSCREENは、従来の印刷製版設備に依存しないオープンな環境で利用できるデジタルフォントが必要になると考え、「デジタル時代のスタンダード書体」を目指してオリジナルフォントの開発に着手します。

書体開発にあたり、これから50年、100年使われるくせのないベーシックな書体スタイルであること、かつ、現代的で若々しいクールなイメージの書体であることをコンセプトとし、なんども試作開発し、チュー二ングを繰り返したとお聞きしました。1993年に「ヒラギノ明朝体」が発売され、1994年に「ヒラギノ角ゴシック体」、1996年に「ヒラギノ行書体」が誕生しました。

そして、2000年の幕張メッセで開催されたMACWORD Expo/Tokyoでのスティーブ・ジョブスの基調講演で、Mac OS Xへ「ヒラギノ明朝体 W3/W6」「ヒラギノ角ゴシック体 W3/W6/W8」「ヒラギノ丸ゴシック体 W4」の標準搭載が発表され、大きなニュースになりました。その後、2007年のiPhoneの日本発売において、iOSにヒラギノフォントが搭載されました。

一般ユーザーが簡単に入手できるiPhoneやMacBookにヒラギノフォントがシステムフォントとして標準搭載されていることは、今となっては当たり前のことのように感じますが、今から約20年前、MacのパーソナルコンピュータのOSにヒラギノフォントが使えることは衝撃的なことだったのです。DTP用のプロフェショナル書体が身近な存在になったのです。

活版印刷の歴史と比較すると、デジタルフォントの歴史はまだ始まったばかりです。「2000年にアップル社のヒラギノフォント標準搭載の出来事は日本語デジタルフォントの歴史を動かした」と、将来、歴史を語る日も近いと思います。

そんなムーブメントがきっかけとなり、2021年現在、macOSには、ものすごく沢山のプロフェッショナル向け日本語フォントが標準搭載され、Windows OSにも多くの日本語フォントが標準搭載される時代になりました。

ヒラギノという名前の由来

ヒラギノフォントの「ヒラギノ」の名前の由来について聞いてみました。

京都の地名から命名しました。フォント名やOSの名称に、地名を採用することはよくありますよね。「San Francisco」「Osaka」などは良い例です。新しい書体を開発していた頃、京都の地名をいろいろ集めて検討しました。様々な候補の中で「柊野(ヒラギノ)」という響きが、現代的で若々しいクールなイメージに合っていたため、「ヒラギノ」に決定しました。

毎日のように接しているヒラギノフォントの名前のルーツが京都の地名「柊野」だということ、フォント豆知識として覚えておくといいかもしれませんね。

文字の読みやすさの考察

ヒラギノフォントは、高速道路の標識で採用されていることでも有名です。

左:従来の標識。右:ヒラギノフォント(和文部分)を採用した新標識(情報提供:東日本高速道路株式会社・中日本高速道路株式会社・西日本高速道路株式会社)

読みやすさとスタンダードさが特徴のヒラギノフォントにはどんな特徴があるのか聞いてみました。

線同士の空間を均一にしています。下記の挿絵で説明すると、丸の部分に一定の空間が確保されていることがわかると思います。線と線のあいだの空きが視覚的に均一に見えるようにしているということです。文字が小さくてもつぶれにくく、ヌケの良い明るい印象を与えます。組んだ時には、テキストブロックとしてグレートーンに統一感が生まれ、レイアウトデザイン全体にまとまりを与える効果もあります。

文字スタイルの違いにフトコロ(画と画により生まれる空間)という概念があります。フトコロが狭い書体や広い書体がありますが、ヒラギノフォントは中間を取り、文字のつぶれを防ぎ認識しやすいようデザインしています。

そして、文字の重心の位置も中間です。重心が高いとクラシックな印象になり、重心が低いと幼い印象になります。ヒラギノフォントはちょうどいい中間の位置に重心がくるようにデザインされています。

ヒラギノフォントの世界

SCREENからリリースされている代表的なフォントを、FONTPLUSためし書きで表現してみました。

ヒラギノ角ゴ・ヒラギノ明朝・ヒラギノ丸ゴのそれぞれに、UDフォント(ユニバーサルデザイン書体)が用意されている

ヒラギノ角ゴシック体とヒラギノ明朝体が有名ですが、「ヒラギノUD角ゴ」「ヒラギノUD明朝」「ヒラギノ丸ゴ」「ヒラギノUD丸ゴ」「こぶりなゴシック」「ヒラギノ角ゴオールド」「ヒラギノ行書」などがあります。

フォントカタログ

ヒラギノフォントのどの書体も、スタンダートでベーシックなスタイルであり、現代的で若々しくてクールという共有点があると思います。さらには、ユニバーサルデザイン書体のバリエーションの選択もできるので、コンテキストにあわせてフォントの適材適所に対応できそうです。

また、ヒラギノフォントは、中国語(簡体・繁体)に積極的な展開をおこなっています。日本語のヒラギノ角ゴシックのデザインを忠実に踏襲した簡体中文・繁体中文は、中国市場にも進出しているグローバル展開する企業においても好評です。

現在、FONTPLUSでは、ヒラギノ角ゴの簡体中文と繁体中文、それぞれ2ウェイト(W3/W6)提供していますが、近日、ヒラギノ角ゴ簡体中文 Stdにおいて5ウェイトを追加リリースし、7ウェイト展開(W0からW6)でご利用できるよう準備中です。ご期待ください。FONTPLUSで使用できるヒラギノのWebフォントは、現在、55書体。近日、ヒラギノ角ゴ簡体中文Std において5書体追加し、60書体になる予定です。

SCREENのフォント一覧

ヒラギノフォントを活用した導入事例

Webフォントとしてヒラギノフォントを活用した導入事例を2つ紹介します。「こぶりな」書体や「ヒラギノUD角ゴ」書体が、読みやすく美しいWebサイトの演出をさりげなく支えているのがとても印象的です。

サン・アドでは、見出しやナビゲーションで「こぶりな」書体が活用され、アクセントとしてのテキストがさりげなく上品です。縦書き・横書きレイアウトをうまく活用することで、美しいグラフィックデザインの作品集を読んでいる気分になります。

サン・アド

キヤノン グローバルでは、読みやすさを配慮したユニバーサルデザイン書体「ヒラギノUD角ゴ」書体が活用されています。企業ビジョン、会社情報、CSR活動などが掲載されたコーポレートサイトとしてのさまざまなコンテンツがさりげなく読みやすいです。全面的にWebフォントを採用しているにも関わらず、Webパフォーマンスに優れている点も印象的です。

キヤノン グローバル

FONTPLUSでは今後も、新機能や新書体の追加、フォントメーカーの追加を検討しています。ご要望などがありましたらお気軽にご連絡ください。