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「活字は印刷の元や(関西弁)!」モトヤの社名ルーツです。

文字やフォントって、日頃あまり意識しないで利用していますが、無くてはならない存在です。文字が存在しなかったら、看板や標識は役に立たなくなります。表現豊かな様々なフォントが存在しなければ、デザインやコンテンツの楽しさが半減します。そんな素敵な文字達を作っているフォントメーカーを紹介する連載ブログ。今回取り上げるのは「モトヤ」です。

フォントメーカー「モトヤ」の社名の由来

株式会社モトヤは大正11年(1922年)に兵庫県姫路市において活字の製造販売・印刷材料の販売で創業し、今年で100周年を迎えるフォントメーカーです。モトヤは、1949年に活字を鋳造するための母型を製作するベントン彫刻機を導入します。活字の母型を作るためには、文字パターンの元になる原字が必要になります。その歴史的背景から、モトヤにおいて書体デザインの仕事がスタートします。ちなみに、モトヤの社名の由来は、「活字は印刷の元や」という関西弁からきているそうです。社名のルーツ話が素敵ですね。

70年を超えるモトヤ書体の歴史を辿ってみると、組版手法や利用目的など、その時代のニーズに応じて、フォントの製品形態が変化してきました。鉛活字・タイプ活字・デジタルフォント(ビットマップフォントやアウトラインフォント)など、時代にあった製品を作り続けています。永年にわたる書体開発の歴史の中で、モトヤが変わらないもの、それは、「可読性の良さ」と「文字の美しさ」の追求とのことです。

鋳造活字からデジタルフォントにいたるまでの歴史

大阪の南船場にあるモトヤ本社へ仕事で定期的にお伺いした中で、本社建物の一角にある「活字資料館」も数回見学しました。えっ、活字資料館って何? モトヤは鋳造活字メーカーでしたので、この100年間の日本語活字の変遷が展示されているのです。

モトヤ活字資料館を初めて見学したのは2011年。この資料館、歴史好きにとっては感動ものでした。活版印刷の機材からタイプライター・DTPシステム・デジタルフォントに至るまでの資料や機材が、時系列に展示してあるのです。あわせて、フォントの設計工程・活字の製造工程・植字台で組版する工程が理解できるよう、部品や治具の展示、それらを説明するパネルが掲示されています。明治から現在に至るまでの日本語活字の歴史を、実物を見ながら、わかりやすく学ぶことができるのです。

モトヤ活字資料館の見学を希望される場合は、モトヤ大阪本社までお問い合わせください。

モトヤ活字資料館

活字を鋳造し、活版印刷の版ができるまで

それでは、活字資料館の写真を何枚か掲載しながら、鋳造活字が製造される過程を簡単にご紹介します。

1)ベントン彫刻機

清書した文字の原図を基にしたパターン(亜鉛版)をなぞりながら、活字の母型(金型のようなもの)を作るのが、ベントン彫刻機です。この装置を操作してきれいな母型を作るのには熟練された技が必要だそうです。活版印刷で使われる鋳造活字は、日本語の文字の数だけ母型を作る必要があります。そして、サイズ単位(5号とか6号とか)毎に、活字を用意しなくてはなりません。それらの活字を鋳造するためには、母型が必要になるのです。

ベントン彫刻機

2)活字鋳造機

母型に地金を流し込んで活字を製造する機械です。地金の主な成分は鉛で、スズやアンチモンという素材も混ぜるようです。地金を熱して液状になったものを母型に流し込み、冷やすと、凸型の活字が完成します。

活字鋳造機

3)植字台で組版

鋳造活字が並べられた活字棚から活字を一つ一つ拾い(文選といいます)、そのあと、植字台で文字間や行送りを調整する小さいパーツ(インテルやクワタ)と組み合わせながら活字を組版していきます。最後に枠を糸でしっかりと縛ります。1万字以上ある膨大な日本語活字を文選して組版する作業ってすごいです。「文字を紡ぐ」という感覚ですね。

ところで、それぞれの文字、何本ずつ製造するのでしょうか? 例えば、ひらがな「の」は使用頻度が高いのでたくさん作る必要があったそうです。今なら、ビッグデータ分析で、文字の使用頻度の分布が数値化できますが、その頃は、経験値の積み上げから判断していたようです。また、小説と週刊誌とでは、よく使われる文字の傾向は違うでしょうし、業界毎に特殊文字や外字が存在するので、特注で文字を鋳造することもあったとお聞きしました。

書体毎に「原字」(文字デザイン)を作成し、そこからベントン彫刻機で母型を作り、鋳造機で金属活字をサイズ毎に製造するといった作業を、モトヤでは行っていたのです。デジタルフォントの世界から比べると気が遠くなる作業です。そんな文字の歴史を知ってしまうと、文字がますます愛おしくなります。

和文タイプライター、DTPシステムへ

欧文の活字タイプライターの文字の数は100字あれば、通常は間にあいます。ところが、日本語のタイプライターを作ろうとすると、必要な文字数って膨大です。日本語は英文の字数に比べて100倍以上ありそうです。モトヤ活字資料館には、日本語タイプライターのような機材が展示してありました。欧文タイプライターのようにタイピングしないので日本語タイプライターという表現は正しくないのかもしれません。資料館に展示してある活字組版装置には日本語の金属活字がずらっと収まっていました。それらの活字を拾い上げ、紙が巻いてあるプラテンに打鍵するとインクリボンから紙に文字が転写されて文章が完成するのです。文字を拾う方法は、手動で必要な文字を一つ一つ拾う方式と、文字盤から拾って電動式で活字を打鍵する方式がありました。

商品名にモトヤ「タイプレス」と書かれています。この「タイプレス」という組版機は、1970年代に広く普及していました。

手動タイプレスP型
電動タイプレスEE

1980年代初頭に電子編集可能な組版機器が普及しはじめます。モトヤでは、1982年に「電子編集組版機WP-6000」を九州松下電気と共同開発しワープロの長所を取り入れた組版機を発売します。1985年にはレーザープリンタを搭載した「電子編集組版システムLASER7」シリーズが発売され、1988年にこの機材の分野にて販売量で業界シェア1位になりました。

電子編集組版機WP-6000
電子編集組版システムLASER7 EX

1980年後半、パーソナルワープロが家庭に普及し、ワープロの累計出荷台数は2,000万台を超えたと言われています。当時のワープロ専用機の多くに、モトヤの明朝体(ドットフォント)が採用されていました。また、モトヤ書体は写真植字(写植)のメーカーへも提供されました。

その後、インターネットの普及により、パソコンやスマホの画面越しにフォントを目にする機会が増え、時代が文字に求めるニーズはデジタルフォントへ変化しました。地図メーカーのウェブサイトではモトヤフォントが採用され、スマホメーカーのシステムフォントにも採用されました。パソコンやインターネットで求められるフォントサービスに柔軟に対応しています。

モトヤ書体の紹介

FONTPLUSで使えるモトヤ書体(69書体)の中から、主な書体をためし書きしてみました。

「モトヤアポロ」と「モトヤステンシルアポロ」は個性があり、素敵な書体です。「星めぐり」などのキャッチコピーに似合う書体で、FONTPLUSでも人気の書体です。そして、モトヤ書体として歴史があり、有名な書体といえば、「モトヤ正楷書」と「モトヤ明朝」です。では、モトヤ書体の中で人気書体のいくつかを詳しく解説します。

モトヤアポロ

「モトヤアポロ」は1969年米国宇宙船アポロが、月面着陸に成功した年に生まれた書体です。ドイツの有名自動車メーカーの宣伝広告を担うなど、モトヤ書体の花形として様々な分野で活躍しています。最近では、明るく清廉なイメージが好印象に繋がるとしてプレゼン用の書体として人気があり、力強さの中に読み易さを兼ね備えた、誰にでも素直に読み取っていただける書体です。

モトヤシーダ

伝統的な「モトヤゴシック」に対し、現代的なゴシック体として「モトヤシーダ」が1998年にリリースされました。「モトヤシーダ」は、文字の懐(ふところ)を最大限に広げ、従来のゴシック体の特徴であった縦棒、横線のラッパ状のアクセントである背勢表現を無くし、直線的ですっきりとしたデザインの書体です。

モトヤマルベリ

「モトヤマルベリ」は「モトヤシーダ」の特徴を受け継いだ丸ゴシック体です。「モトヤマルベリ」の開発にあたっては、懐を更に広げたり、仮名に丸みを持たせたりし、より丸ゴシックらしく見せるための処理を施しています。その結果、マルベリは充分な丸みを持ちながらも、シーダの特徴であるスッキリとした印象を併せ持った書体に仕上がっています。

モトヤ正楷書

戦後の日本の楷書体活字は、戦災により一部消失に加え、複製を繰り返したことなどを理由に、寄せ集めのようでした。そのような状況の中、書家であり書体デザイナーの山田博人氏が、唐を代表する欧陽詢の楷書を基に、統一された考えのもと、字並びや文字の大小、線の太さに不揃いがないように整理統合し、1957年に「モトヤ正楷書」を完成させました。通常、金属活字は鋳造時にカッターで活字の4面のバリ取りを行うため、ボディからはみ出ることはありません。しかし「モトヤ正楷書」の活字は「しんにょう」などが活字のボディからはみ出ており、毛筆の味わいと伸びやかな筆遣いが再現されています。

モトヤ正楷書の金属活字
山田博人氏

モトヤ明朝

モトヤ書体の礎を築いたのは、朝日新聞社で活字彫刻を手掛けていた太佐源三氏です。モトヤに招聘された太佐氏は、それまでの豊富な経験と技術を活かして1952年に初のモトヤ書体となる、「モトヤ明朝」を完成させました。「モトヤ明朝」は、造形の基本を「書」に置いた漢字と、様々な形からなる仮名のデザインをできるだけ正方へ近づけることで縦組にも横組にも適した、美しく可読性の高い書体です。

太佐源三氏

モトヤではここ数年の間にも新書体を次々とリリースしており、今後FONTPLUSでもご利用いただけるよう検討して参ります。

フォントカタログ

挿絵および写真の一部は株式会社モトヤからご提供いただきました。

本記事は「『活字は印刷の元や(関西弁)!』モトヤの社名ルーツです。」(note、2022年1月24日)を改訂したものです。