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100年以上の歴史を持つ「秀英体」は大日本印刷(DNP)が開発したフォントだということ、ご存知でしたか? そして、DNPのルーツは明治9年創業の「秀英舎」にあります。

FONTPLUSでご利用いただけるフォントメーカー14社(2021年12月現在)をご紹介する連載マガジン。今回取り上げるのは「大日本印刷(DNP)」です。

「大日本印刷(DNP)」とは

大日本印刷といえば、誰もが知っている、日本を代表する総合印刷会社です。読み方は「だいにほん」ではなく、「だいにっぽん」です。社名の英語表記「Dai Nippon Printing Co., Ltd.」からDNP(ディー・エヌ・ピー)と呼ばれることも、最近は増えたような気がします。

現在DNPは、雑誌や書籍などの「紙の印刷」に限らず、印刷と情報(P&I:Printing & Information)の強みを基盤として、包装・建材・エレクトロニクス製品などのほか、エネルギー分野やライフサイエンス分野にも注力しています。私たちが生活の中で使用しているクレジットカード、コンビニ等で手にするさまざまな製品のパッケージなど、DNPが製造しているものは少なくありません。

そんな印刷業界大手のDNPですが、創業は今から145年前にさかのぼります。「秀英舎」という会社です。皆さん、ご存知でしたか?

秀英舎は、明治維新後まもない1876年(明治9年)、東京・銀座の地で創業しました。「印刷を通じて人々の知識や文化の向上に貢献したい」という熱い想いが創業の原動力だったそうです。明治初頭、欧米の思想や最先端の技術情報等を伝える上で重要な役割を果たしたのは書物でした。そして、その大量生産を可能にしたのが、当時日本に入ってきたばかりの「活版印刷」の技術だったのです。

1886年(明治19年)、秀英舎は東京・市谷に工場を建設します。1923年(大正12年)の関東大震災で銀座の本舎工場が焼失したため、本社機能を再開発工事が進んでいた市谷に移します。そして、1935年(昭和10年)、秀英舎は日清印刷と合併し「大日本印刷」となります。

2015年、この地に、本社機能をもつ「DNP市谷加賀町ビル」が完成しました。また、この一帯で武蔵野の雑木林をイメージした「市谷の杜」の開発を進めており、緑がとても豊かな場所になっています。年々、その緑の風景は広がっていると感じます。

以上、1世紀半に近いDNPの変遷を簡単にまとめてみました。

「秀英体」のルーツを探る

秀英体は、DNPが秀英舎の時代から100年以上にわたり開発を続けているDNPのオリジナル書体です。1912年(明治45年)には、見出し等に使う大きな活字「初号」から、ルビ等に使う小さい活字「八号」まで、各活字サイズの秀英体の明朝体が揃いました。

秀英体は、築地体と並んで「和文活字の二大潮流」と評され、新たに生まれた金属活字や写真植字の書体やデジタルフォントのデザインに、大きな影響を与えてきたと言われています。

秀英体は、“気骨のある初号” “流麗で繊細な三号” “明るく落ち着いた四号”と評されるように、活字の大きさに合わせてデザインされており、その骨格も異なっています。また、100年以上にわたり使われ続ける中で、印刷方式の変遷に合わせてアップデートを続けてきました。

『広辞苑』では、1955年(昭和30年)に刊行された初版から最新の第7版まで秀英体が使用されています。新潮文庫やベストセラー小説でも秀英体が多く使われており、書籍好きの方は必ず目にしてきた書体なのです。

創業130年を目前にした2005年に、秀英体のリニューアルプロジェクト「秀英体 平成の大改刻」がスタートします。約7年をかけて、本文用書体「秀英明朝ファミリー」・見出し用書体「秀英初号明朝」・新書体「秀英角ゴシック金/銀」「秀英丸ゴシック」の10書体を開発し、DTP環境や電子書籍ビューアーやワープロソフト等、オープンなデジタル環境に向けてのライセンス提供もスタートしました。

その後、2008年にはディスプレイ表示での視認性を考慮した「横太明朝」を開発、2015年には「四号かな」「四号太かな」「アンチック」のかな書体を復刻した他、2015年からは活版印刷の風合いを表現した「にじみシリーズ」の開発に取り組んでいます。

ながらくDNPのハウスフォントだった秀英体シリーズが、パソコンやDTPのデジタルフォントとして、また、デジタルサイネージやWebフォントとして広く使用できるようになったのは、わりと最近のことなのです。

秀英体の主要書体ラインアップ
秀英体の主要書体ラインアップ(にじみ)

それでは、秀英体の中で、フラグシップ的な存在の「秀英初号明朝」を、FONTPLUSで「ためし書き」してみましょう。

フォントカタログ

秀英初号明朝って、力強さの中にも、愛嬌を感じる書体ですよね。この書体、明治時代に作成された金属活字の面影をきちんと復刻しているので独特の表情がありませんか? 特にひらがなの「あ」とか「え」とかは、ちょっと斜めというか、少し平行四辺形がかった感じがしませんか? そんな個性ある見出し書体、好きです。

次に、FONTPLUSで現在使用できる秀英体の中で代表的な書体を見てみましょう。

フォントカタログ

秀英角ゴシック銀はとても印象的な書体ですね。ゴシック体なのに筆で書いたような優しい味わいを感じます。現在、FONTPLUSで使用できる大日本印刷のWebフォントは、21書体です。

金属活字を紙に押し付けた時の「インクのにじみ」を、コンピューター処理で精緻に再現した秀英体の「にじみシリーズ」のうち、FONTPLUSでは「秀英にじみ明朝 L」が利用できます。2018年以降の新書体「秀英にじみ丸ゴシック B」「秀英にじみ角ゴシック金 B」「秀英にじみ角ゴシック銀 B」「秀英にじみアンチック」についても、今後FONTPLUSで利用できるように検討して参ります。

活字と本づくりに関する文化施設「市谷の杜 本と活字館」

2021年2月にDNPがオープンした、活字と本づくりに関する文化施設「市谷の杜 本と活字館」で、「秀英体」をテーマにした企画展「秀英体111 秀英体ってどんな形?」が開催(2022年2月27日まで)されているので行ってきました。

この「市谷の杜 本と活字館」は、1926年(大正15年)に建てられた旧営業所棟を創建当時の姿に修復・復元した建物で、DNPの祖業である活版印刷の工場を一部再現しています。活字や活版印刷の歴史だけでなく、レトロな建物も印象的でした。以前からあった「時計台」の文字盤も古い写真から竣工当時のデザインに復元されたそうで感激しました。

1階は、「活字がどのようにして作られ、どのように印刷・製本されるのか」が理解できる活字歴史館という感じです。設備の実物や解説の動画を見ながら、誰でも楽しめる常設展示です。高校生や大学生の皆さんは、ぜひ、見学してほしいです。親子で訪問するのも良いですね。

コミュニケーションの基盤として、なくてはならない重要な役割を果たしている文字やフォント。それらの歴史や仕組みを知ることは大切だと思うのです。そして、それらを知ることで文字が楽しくなり、どう活用するかといった知恵やヒントがたくさん発見できます。

「市谷の杜 本と活字館」を訪問した際に、許可を得て撮影したスナップショットをいくつか紹介します。

秀英体の原字
活字母型(金属活字の金型)
活字
活字棚
植字台(活字組版)

感情表現フォントシステム

DNPの秀英体開発部門では、書体の開発にとどまらず、書体に関連したコミュニケーションツールも開発しています。その一つのソリューション「DNP感情表現フォントシステム」をご紹介します。

テキストの内容に応じて、その感情にマッチしたフォントに自動で変換して表現するシステムです。例えば、楽しい内容は丸みのある書体、怒っている内容はトゲトゲした書体、「和」のイメージは筆書体で表示します。この仕組みを発展させて、映像に含まれる音声の内容に合わせて、自動的に適切なフォントがあたったテロップで表示することも可能にしていました。フォントが持つ役割を活用することで、テロップや字幕放送の表現を彩り、耳が不自由な方にとって、あるいは屋外サイネージや車内広告といった音声が出せない環境において、人と人とのコミュニケーションをより豊かにするツールとして活躍しそうです。

日頃あまり意識することはないけれど、コミュニケーションを支えるなくてはならない基盤――そんなフォントは、私たちの情報革命にとって、隠れた主人公なのかもしれませんね。

挿絵および写真の一部は大日本印刷株式会社からご提供いただきました。

本記事は「100年以上の歴史を持つ「秀英体」は大日本印刷(DNP)が開発したフォントだということ、ご存知でしたか? そして、DNPのルーツは明治9年創業の「秀英舎」にあります。」(note、2021年12月21日)を改訂したものです。